概要

【本領域の目的】
ビッグバンのように「無から有が創出される特異点」や、人工知能がヒトの知能を凌駕する技術的特異点はシンギュラリティ(臨界)と呼ばれています。有機スープからの生命誕生、進化、感染爆発など生物科学においても、不連続な臨界現象は広く存在します。ここでは極めて稀にしか起こらない少数要素のイベントが核となり、多要素システム全体の働きに不連続な変化をもたらす可能性が示唆されているものの、シンギュラリティ現象が生起される作用機序はほとんど明らかにされていません。本領域では、生命現象において臨界をもたらす「シンギュラリティ細胞」にアプローチするため、稀なイベントを見逃さない、超広視野と高解像度、高速と長時間撮影を両立したイメージングプラットフォームと対応する情報解析手法を構築し、シンギュラリティ細胞が生成される作用機序、ならびにそれが果たす生物学的な役割を解明する新しい学術の開拓を目指します。

【本領域の内容】
少数派であるシンギュラリティ細胞がマクロなシステム全体(臓器や全個体)に臨界をもたらす過程を研究するには、巨大なシステムを全空間・全時間的に計測・解析・検証する必要があります。このためには、「分子〜細胞〜臓器」をスケール横断的に可視化できるイメージングシステムが必要です。そこで、本領域では総括班のもとにコアチームを編成し、「木も森も見る」システムつまり、ミクロな精度でマクロな時空間動態を解析できる世界で唯一無二のAMATERAS (A Multi-scale/modal Analytical Tool for Every Rare Activity in Singularity) を開発します。また「ミクロからマクロをシームレスにつなぐ」真のトランススケール解析を展開するため、次の3班を構成します。つまりA01班は、光学・分子工学の立場からシンギュラリティ細胞を計測・操作する技術を開発・統合します。A02班は、情報科学の立場からシンギュラリティ細胞の同定と因果律検証のための論理的フレームワークを構築します。A03班は、個々の生物モデルを対象に、導き出された因果律の検証を行い、シンギュラリティ現象の生物学的意義を解明します。これらの循環的な連携研究を展開し、様々な生命現象におけるシンギュラリティ現象を同定しその普遍性を示すことで、シンギュラリティ生物学を創生します。

【期待される成果と意義】
世界的にも類例のない計測・解析統合デバイスAMATERASを開発し、共同利用体制を確立します。その効果的な運用は、光学、分子工学、数理生物学、情報科学、生物学、医学研究者による大規模な異分野連携研究を加速させ、革新的なデバイスの開発、新たな情報処理理論の構築、疾患の超早期診断・介入法といった成果をもたらすことが期待されます。また、AMATERASを核としたアライアンスネットワークを構築することで、産学連携を推進するとともに、トランススケール計測に特化した国際トレーニングコースや国際シンポジウムの開催を通じ、異分野連携に精通した次世代の若手リーダーを排出するなど、人材育成においても大きな貢献が期待されます。

【キーワード】
シンギュラリティ現象:臓器や個体など膨大な数の細胞から構成される多細胞社会において、システム全体の動態が不連続かつ劇的に変化する現象。そのきっかけをとなる少数派の重要な細胞をシンギュラリティ細胞と呼びます。